思い出をアーカイブした“時代遅れの”林檎

 

「緋之衣(ひのころも)」に「旭(あさひ)」。
ご年配の方には懐かしい名前ではないだろうか。
かつてはリンゴの代名詞でもあったこれらの品種は、今では殆ど作られず、流通もしない希少種である。

「緋之衣」は実が硬く、甘みが少ない。
一方の「旭」は、ボソボソとした食感で、食べずらい。
どちらも今の時代には好まれず、すっかり時代遅れのリンゴになってしまった。

日本で最初にリンゴが実った余市には、ほんのわずかだが、これらのリンゴを栽培している農家があるのだと聞き、さっそく知人を通じて分けてもらった。
真っ赤な「旭」を口にすると、小学校からの帰り道、真紅に実ったリンゴを失敬し、みんなで食べながら余市川の土手を歩いた思い出がよみがえる。
町なかでは、秋になるとリンゴ問屋が活気づき、店の前に止めたトラックの荷台にたくさんのリンゴ箱を積み上げていた光景も浮かんできた。

かつてはリンゴの代名詞だった「緋之衣」(上)と「旭」

「とても珍しいリンゴが手に入りましたよ」
仕事でお世話になっている会社に少しだけおすそ分けをする。
「おお、緋之衣!」
年配の社員は目を輝かせ、若いスタッフはキョトンとした顔。
「四十九(しじゅうく)、国光(こっこう)なんて種類があったね。いやぁ懐かしい。」
「インドリンゴにデリシャスってのもありましたよ」
「木のリンゴ箱におが屑が入ってたね」
「おが屑をかき分けて誰が一番大きなリンゴを見つけるか、兄弟でよく競ったものだよ」
時代遅れのリンゴをネタに、話にも花が咲く。
見向きもされなくなった"赤い玉"が、人々の思い出をアーカイブしている。
素敵なことだ。

毎年秋になると、リンゴをはじめ、たくさんの果物が実る余市は、住む者、訪れる者に、この土地の豊かさを教え、見せてくれる。
ぜひ、余市を訪れ、豊かに実ったリンゴや果物を見て、触れて、味わってほしい。
今の時代に"受け入れられている"リンゴたちが、貴方を待っている。

最後にどうでも良い話を。
「旭」の英語名は"Macintosh"である。
アップルコンピュータの創設者も「旭」を食べていたのだろうか?・・想像すると楽しくなる。

 

TOP